京のしらべ その四
「うつわ」その(二)
うつわその(二)は塗り物でございます。日本の傳統的な物の一つで、古くから私たちの生活の中に生きて参りました。彫師はいても塗師は少ないと云われるように、うるしを幾度も塗り重ねてゆく、箔を置いて蒔絵を描く、使えば使う程重ねられたうるしの色が出てくる。“わび”にも通じる奥ゆかしさではないでしょうか。身近なものに汁椀、お盆、座卓、京都の塗りはほとんど北陸へ出されます。輪島もその一つ、気候風土が適しているのでしょう。
七月十七日は祇園祭りです。あの鉾を乗せて引く車、直径三メートルはありましょう。車輪もうるし塗りでございます。それぞれの蒔絵をほどこし、精魂こめて塗りこめられ何百年経ってもその優雅さを失わない、素晴らしい傳統芸術でございましょう。
辻々から集まった七基の鉾がお池通りで一本になり、青竹を敷いた大路を大曲がりして行く様は息を飲むほどの見事さでございます。十四日の夜にはそれぞれの辻に鉾が組み立てられ灯が入り、コンチキチンのお囃しが響きます。振舞われた「ちまき」やうちわを持って浴衣を着た大勢の人達で町中が賑わいます。「宵山」といわれる巡行前の夜の賑わいが私は好きです。唯々商売繁盛を祈る祇園の祭り、京都の古くからの商売への情熱が今もって傳統芸術を支えているのでしょう。
京料理の小さな器にも全てその心が込められていると思います。私共の京べんとうに使っております、「松花堂」もその一つ、うるしの色の出来上がりは焼物の絵上がり同じで、ちょっとした加減で赤とも黒とも難しいものでございます。
金箔の桜吹雪の絵柄と共に大変気に入っている器の一つでございます。洗剤を使わず手洗いの心遣いが、ますますよいつやを出してくれる事でございましょう。